「俺、今さっき自転車で転んだらしい女の子を助けたんですけど、連絡は学校にしてくれって言われたんです。」
「自転車……?」
最初は意味が分からなかった。
自転車で転んだ?どうしてわざわざ名指しで、俺を呼ぶんだ。
しかし直ぐに合点がいった。
「その女の子の名前は、瀬沼桃ちゃんと言うらしいんですけどね。」
「……。」
全く世話の焼ける。
電話を切った後に仕方なく、中野は車の鍵を引っ掴んで理科準備室を出た。
どうやら瀬沼桃は、三戸と言う男の家に保護されているらしい。三戸の声は酷く若かった。
男だという事実が苛立ちを煽っている。
俺はもう、重症らしい。中野は思った。
先程の電話で、三戸の家のおおよその位置は聞いて把握した。
慌ててエンジンを掛けて、校内から出る。
溜め息を吐きながらも、瀬沼桃がわざわざ自分に連絡してきたという事実が、中野を酷く喜ばせた。
早く連れ戻しに行こう。そして、早く自分のそばに置いておこう。
あんな風に可愛い生き物だからこそ。

