そんな風に、毎日の居残りを続けていた瀬沼桃だが、中野が部屋にいない間に抜け出す癖は直らなかった。
それでも、下校時刻を告げる放送が鳴るまでには帰ってきていたので、中野も次第に強く言わなくなっていた。
ある日、それは2月上旬のことだった。
珍しいことに、用事があるので一日だけ居残りを休ませて欲しい、と瀬沼桃が言う。中野はそれを快く了承し、放課後は直ぐに帰した。
毎日一緒にいるのが習慣になってきているために、理科準備室に瀬沼桃の姿がないのは違和感があった。
それでもあまり気にすまいと、中野が明日の授業の準備をしていた時、部屋にある電話の内線が鳴り響いた。
特に気に留めず、中野はそれを受ける。
「はい。」
「中野先生、お電話です。内線2番でお繋ぎしますね。」
「はい。」
事務員の声が受話器から聞こえた。
それから直ぐに外線へと切り替わった。
「もしもし、中野ですが……、」
「あ、すみません。俺、三戸と言います。実は……。」
相手は見知らぬ男だった。

