その日から、確実に中野の瀬沼桃を見る目が変わってしまったのは言うまでもない。
つまりは、恋を、したのだった。
教師が生徒に、恋をした。
またその翌日のことだ。
放課後、瀬沼桃は課題を終わらせる為に理科準備室へ来た。小さくドアがノックされて、瀬沼桃が入ってくる。
中野が顔を上げると、機嫌を窺うように瀬沼桃は首を傾げた。その仕草すら、中野には愛らしい。
「先生、課題一つ終わった。」
「お、終わったか。お疲れさん。」
「はい。」
両手で課題のプリントを掴み、瀬沼桃は中野に手渡した。内容をざっと見て、プリントの空間が埋まっているのを確認すると、中野は瀬沼桃を褒めてやった。
「よし、ちゃんとできてるな。」
瀬沼桃は少し頬の弛んだ表情を見せた。中野はそれだけでドキリとする。
昨日一日くらいで、これ程に感覚が変わってしまうものだろうかと、中野は困ったように頭を掻いた。
瀬沼桃はまた椅子に腰を掛けて、次の課題に取り掛かり始めた。今日は中野が呼び出されることもなく、瀬沼桃は下校時刻まできちんと、課題をこなしていた。

