「ほら。」
「……。」
中野は瀬沼桃に温かいミルクティーを手渡した。瀬沼桃は驚きながらそれを受け取り、呆然としている。
それからぼんやりと、中野が小道に入ったのはこれを買う為だったのだと、合点がいった。
「まああれだ。なんだかんだ言ってお前、頑張ってるもんな。やる気がないと普通は毎日来ないだろう。……悪かったよ。」
「……、」
「ぼうっとしていないで、冷めないうちに早く飲め。」
中野が促すと、瀬沼桃は小さく「ありがとう。」と呟いて、温かい缶を両手で包んだ。
その横で、中野は既に温かい缶コーヒーを飲み干そうとしていた。
間もなくカツン、カツンと小気味の良い音がし始めた。
「……おい、瀬沼。」
「はい。」
「何をしているんだ。」
「……昨日爪を切っちゃって。」
どうやら瀬沼桃が缶のプルタブを開けようとしている音だったようだ。
仕方なく、中野はそれを開けて手渡してやった。
「すみません……、」
「いや、良いけどさ。」
「あち、……おいし。」
……っ、何だ、この可愛い生き物は!
柄にもなく中野は、そんなことを思ったのだった。

