未提出課題

 

そして、中野はまた昨日と同様に瀬沼桃を助手席に乗せた。
瀬沼桃はどことなく緊張した面持ちで、またマフラーをゆるゆると解いた。
 

 
「一生徒のことだから深く詮索はしないがな。わざわざ黙って抜け出して、俺からしてみれば、何をしているんだと思ってしまうだろう?」
 

「……ウン。」
 

「早く課題を済さないと、お前だけ卒業できなくなるぞ。」
 

「……。」
 

 
あまりにも瀬沼桃が肩を竦めているので、何やらこちらが悪いことをしている気分になってくる。
こういう事態にどうすれば良いかなど、職に就いてまだ日が浅く判らない中野は、すっかりと弱ってしまった。
 

とりあえず無言のままエンジンを掛け、ゆっくりと発車した。
中野は、校外へ出てから暫く行ったところの脇にある小道に車を停め、車内に瀬沼桃を残したまま、外へ出ていった。
瀬沼桃は不安そうにしながら、ただ中野の帰ってくるのを待っている。
 

 
「ああ、寒いっ。」
 

 
ブルリと震えながら、間もなく中野は戻ってきた。運転席に中野が座ると、車体が少しだけ揺れたのが瀬沼桃にも分かった。