未提出課題

 

「瀬沼っ。」
 

 
中野は大きな音を立ててドアを開いた。
そこは案の定もぬけの殻だ。
瀬沼桃は昨日と同様に、ペンケースや鞄を放り出したまま、姿を消していた。
 

すっかり閉口してしまった。
昨日は探しに走り回ったが、どこにいるか分からなかったし、結局帰ってきたのだ。
心配せずとも帰ってくるだろう、と中野は思い、コンピュータの前の椅子に腰掛けた。
 

先程竹永から受け取った名刺を、財布の中に丁重にしまいこんだ。
変な安心感と、満足感とが心を支配する。こんな時、国語科の恩師だったら何と表現するだろう。そんなことを思った。
 

暫くして、理科準備室のドアが開いた。
 

 
「……あ。」
 

 
声を漏らしたのは、瀬沼桃だ。
どうやら帰って来たらしい。
丁寧にも、6時45分に下校時刻を報告する放送が鳴る間際にだ。
 

 
「全く……、お前は昨日も今日もどこに行ってるんだよ。」
 

「……、」
 

「もういいから、帰るぞ。」
 

 
埒があかないと思った中野は、結局瀬沼桃を深く咎めもしないで帰宅を促した。
強引にマフラーを掴んで瀬沼桃に渡す。彼女はおずおずとマフラーを首に巻き付けていた。