廊下は寒いし、早く行って用を済ませてしまおうと思い、中野は足早に職員室へ向かった。瀬沼桃はちゃんと課題をしているだろうか、そんな不安が頭を過る。
「失礼します。」
「ああ、中野。」
声を掛けてから職員室に入ると、そこには懐かしい知人が、いや、恩人と呼ぶ方が相応しい人がいた。
「竹永先生!」
「久し振りだなあ、元気そうだ。」
中野の高校時代の恩師、竹永一彦である。国語科教諭をしていた竹永は、今では教育委員会で何やら大層な役員になっているらしい。
その教育委員会の関係で、中野が勤めるこの高校に来たらしく、わざわざ顔を見せに来たらしいのだ。
「お久しぶりです!」
「本当に、何年ぶりだろう。敬語が使えるようになったんだな、トシ!」
ああ、ああそうだ。この人だけは俺を可愛がってくれたんだ。
中野は久し振りにその声で呼ばれた名前が、とても愛しく感じられた。
いつの間にか、竹永を案内した気の利く事務員は、職員室から出ていた。

