自慢ではないが中野自身はまだ若いし、それなりに慕ってくれる女生徒もいる。
学生時代には、もちろん満遍なく女子と付き合っていたし、バスケットボール部ではキャプテンも務めた。
「バスケはしていたよ。よく解るな。」
「背、何センチ?」
「182、3はあるんじゃないかな。」
「……。」
中野が淡々と答えると、瀬沼桃はひとしきりぼんやりとして、「大きい……、」と呟いた。
「瀬沼は何センチなんだ?」
「154くらい。大きくならなかった。」
「小さいな……。」
そんな風に、珍しいことに無口な瀬沼桃が年齢相応らしくよく話すのを聞きながら、中野は気分がよくなっていた。
暫くそうして話していると、中野を呼び出す放送が鳴った。
「中野先生、中野先生、至急職員室まで……、」
「あ……、」
何か急な話でもあるのだろうかと、中野は腰を上げて理科準備室を後にした。
ちゃんと課題をしているようにと、中野が念を押して瀬沼桃に言えば、昨日と同様に、黙ったまま素直に頷いてみせた。

