翌日の放課後、また中野は瀬沼桃が課題で居残りするのを見ていた。
言い方は良くないが、中野の瀬沼桃を、少々監視していなくてはと思ったのだ。また居なくなられては困る。
瀬沼桃は、理科準備室で大人しく課題をしている。それを見ながら、中野は授業で使用する資料を探したり、プリントを作成したりしていた。
ふとした時に、コーヒーをいれた。
「先生。」
「何だ?」
唐突なその呼び掛けに、少し動揺した。
中野はキーボードを叩く指をピタリと止めて、その声の主である瀬沼桃を見た。
瀬沼桃はじっとこちらを見つめている。中野は、自分が酷く狼狽しているらしいことに、焦っていた。
「先生は、部活の顧問はしていないの?」
初めて、瀬沼桃がまともに口を聞いた。
中野は平静を装い、それに答える。
「一応科学研究部というものはあるんだけどな、部員も少ないし、なかなか集まらないから活動ができないんだよ。」
「ふうん。先生、スポーツできそうな感じなのに。」

