事務室に鍵を返却し、中野は足早に下足場へ向かう。下足場には、鞄を持って少し寒そうに足踏みをしている瀬沼桃がいた。
「すまん、待たせたな。行こう。」
中野の声に反応して振り向いた瀬沼桃の鼻が赤くなっている。
そんな愛らしい顔に、思わず笑みがこぼれた。
「はい、乗って。」
校内の駐車場から中野自身の車を見つけると、まず助手席に瀬沼桃を乗せた。
それから反対側の運転席に乗り込み、エンジンをかけて暖房をつけた。隣りにはゆっくりとした動作で、マフラーを外す瀬沼桃が目に入る。
あの愛らしい赤い鼻があらわになって、中野は再び笑ってしまった。
「瀬沼、鼻が真っ赤だぞ。」
「……寒いもん。」
恥ずかしそうに、瀬沼桃は鼻を指で触っていた。

