「お姉ちゃん!」


ホテルのエントランスを抜けて流しのタクシーを拾おうとしていた私を呼び止めたのは、


「お姉ちゃん……」


私の妹。



振り向いた私に、妹は少しホッとした表情でこちらを見ていた。

涙の跡が頬に残っている。

その陶器のような滑らかな頬を紅潮させて、長い睫毛がじんわりと湿っている。


妹が。天音が泣いたところを、そういえば長いこと見ていなかったと思い出す。



……私は妹がずっと羨ましかった。