智くんだけは。 どうしても。 諦めるなんて出来ない。 智くんの掌が私の頬を包み込み、親指が目尻を擦る。 その感覚を私は知っている。 あの日、智くんと付き合うきっかけになった日。 おじいちゃんのことを失ったのに泣けないと話したあの日。 あの時も、智くんは同じように私の目尻を優しく触ってくれた。 あの時と違うのは、 「ほら、泣けよ」 私の目に涙が溜まっていること。