ぶるっと身震いをしたのを感じながらも止まずに言葉の続きを待つ。


「悲しいのに、辛いはずなのに、涙が出ないんです」


触れる彼女の肌は熱く、生きているのだと実感する。


「こんなに大好きなのに、もう会えないのに、泣かない自分はおかしいんだと思います」


また徐々に視線が下がっていくのを許さないように、
目尻にあった手を滑るようにその頬に当てる。


「もう会えないって分かってるはずなのに、頭のおかしい私はふわふわとした意識の中で駅のホームを歩いていたことまでは覚えているんです」


そこまで話すと、
彼女が自分の頬に触れる俺の手に擦り寄るように、そっと目を閉じて身を(ゆだ)ねるようにした。




「お前の命はそんなにいらないものなのか?」



触れる手の親指でその滑らかな頬を軽くなぞる。

ハマりそうなほど気持ちのいい手触りに、さっきまでとは違う心のざわつきを感じた。