3月の下旬、たまに冬に逆戻りするくらい寒い日がある年度末の忙しい時期。

東京は春に向かうこの時期にたまに雪が降る。

昨日降った雪がわずかに足もとに残っていた。


今日は珍しく取引先との打ち合わせから直帰できたのでいつもよりだいぶ早い、まだ夕方の時間帯に最寄駅に着いた。

どこか寄っても良かったが、ここ数日の激務に正直身体が限界で、一刻も早く眠りたかった。



電車から降りて人混みもまばらなホームを歩く。

数メートル先にどこか見覚えのある髪が目についた。
色素の薄い栗色の柔らかそうな猫っ毛が揺れていた。

……あれは。

一週間ほど前に定期券を拾ってくれた人の後ろ姿に見えた。

そうか、同じ駅を利用してるのか。


改札階へと向かう階段に足を向けながら、視界の端で彼女の姿を捉えていると、


ーーー刹那。