膝の上に乗る天音を腕に抱きながら思う。

この環境で育ってきたから、お前は何でも諦めてしまう癖がついたんだな。


正直、話を聞いてこいつの姉も親もそして中学のときの元彼も全員すごい嫌いになったけど、
こんなことを淡々と落ち着いて話すこいつが健気で、何よりかわいそうだった。

別に暴力を振るわれていたわけでも、いじめを受けていたわけでもない。

ただ、周りに何かを訴えても叶わず、努力も認められず、常に遠慮していると、そのうち自分の意見を押し通すことが悪いことに思えてくる。


そして、困って助けを求めて泣いても誰も振り返ってくれないならば、

……そのうち泣くことをも諦めてしまう。



出会ってから天音は、一度も泣いていなかった。

今も泣けばいいのに。

泣いて感情を全てぶつけて吐き出せばいいのに。




『泣けないんです』

あの時、こいつはそう言ったんだ。