「朝からひっつかないでくれる?」
そう言って俺は強引に腕を払いのけてスタスタと歩き出す。
「なんなのよ……」
ぼそっと聞こえた声にも舌打ちにも俺はなにも思わない。
だけど、こんな俺の態度が気に食わなかったのか小麻里は負けじと俺についてくる。
そして、他の男ならイチコロであろう甘ったるい声で話し始めた。
「私ね、悠雅のことまってたんだよぉ?」
「……あっそ」
今の俺は美夜と舞台の集合時間に遅れてしまうと言うことで頭がいっぱいだ。
小麻里に構ってる暇はない。
それに俺と小麻里はもう終わってるはず。
「小麻里……」
「どーしたの?悠雅」
俺は小麻里の方を見ずに真っ直ぐに道の先を見ながらはっきりとした声で言った。
「俺は美夜が好きだ」
少し、響いた俺の声。
美夜が好き
そう言葉にしただけで胸が弾む。
トクトクと、心臓の音が少し大きくなる。
だけど………
「だから?」
俺とは反対に鋭く尖った小麻里の声。
「だからなに?
私だって悠雅のことなんか好きじゃない」
そう言って俺の腕をぐっと掴んできた。
細い腕をしているのに痛いほど掴まれ、長い爪が皮膚に食い込む。
「お、おい、やめろ」
「そう言ってやめると思ってるの?」
小麻里が鋭い瞳で俺のことを睨みつけた。
「私だって好きでこんなことしてない。
ただ、私は聖斗を傷つけた美夜ってやつが許せない。
だから、あの子を傷つけるために悠雅と付き合ってるだけなんだから…」