「美夜」


あなたのいつもよりも慌てている声が
耳に届いてハッとする。


あ、あたし

最悪なところを見てしまった。


悠雅の唇が少し赤く滲んでる。


きっとあれは血なんだなっと思うのに
そんなに時間はかからなくて
小麻里ちゃんの唇にも赤い血が滲んでた。


ああ、もう……。


本当に最悪。


正直、二人が付き合っていることを
認めたくなかった自分がいた。


小麻里ちゃんがあたしについた
ひどい嘘なんだと……


思っていたかった。


あたしはただ、その場に立っていることしか出来なくて


足がすくんで
この場所から逃げ出すことができない。


「美夜…」


悠雅があたしのことを呼ぶ。


やめてよ

呼ばないでよ

そんなに悲しそうな声で……



悠雅がゆっくりとあたしの方に歩いてくる。


いやだ、

近づかないで……


あたしの瞳にいっぱいの涙が溜まって

視界がぐにゃりと歪んでく。


目尻が熱くて

今にも泣いてしまいそう。


「美夜」


悠雅がまたあたしを呼んで
大きな手をあたしに伸ばしてきた。


いやだ

触れないで

触れないで…


泣いてしまうから…



そう思ってギュッと目をつぶった。