俺は聖斗の言葉に何も言えなくなる。
だって、思い出せないんだ。
美夜のことも、美夜と過ごしたはずの思い出も好きだったはずの気持ちも。
俺はただ黙り込んで下を向き
自分の拳をぎゅっと握りしめる。
すると、また俺の前に立っている聖斗がため息を吐いた。
「まだ、思い出してないんだ。美夜のこと」
ちょっと鼻で笑うような言い方に
少し、腹が立つ。
でも、今は怒っているような場合じゃない。
なんで、こいつ。
美夜のこと名前で呼んでるんだよ。
美夜って俺と同い年だろ?
お前より年上なんだろ?
先輩とか、さん付けで呼ぶのが普通じゃないの?
頭の中でぐるぐる回る疑問の渦。
「じゃあ、教えてあげるよ、兄さん」
「え………?」
その聖斗の言葉に俺は重たい頭を上げる。
そのときの聖斗はにっこりと微笑んでいた。
「俺と美夜は付き合ってたんだよ?」
にっこりと微笑んで細めた目が俺のことを睨みつけるみたいに見ている。
「………………は?」
俺はぱっくりと開いた口から
気の抜けるような声しか出なかった。

