「ねぇ、美夜ー。辞書貸してよ」


「え?あ、うん……」


そのあと、あたしは聖斗に自分の辞書を渡した。


また返しにくる。そう言ってあたしの前から消えていく聖斗。


ひらひらと別れ際に手を振る仕草さえ
悠雅に似ていると思ってしまう。


はぁぁぁ………


そんなこと考えるとか


あたし、どんだけ悠雅のこと好きなんだろう。


悠雅にはもう………

近寄るなって言われちゃったのにな。


そんなことを考えると
また涙が出そうになる。


あぁ、だめだめ。


こんなところで泣いたら目立つから………


泣いちゃいけない。


そう考えるとあたしは自分の頭をぶんぶんと横に振り回す。


はぁ…………


ため息しか出てこない自分の口に
ガムテープでも貼ってしまいたくなる。


そう、思ったとき………


ぞくり。


自分の背筋が凍るほどの何かの殺気を感じた。


あたしは慌てて周りを見渡した。


でも廊下にはたくさんの人がいて……


きっと、気のせい………だよね?


あたし、風邪引いてたからそれがまだ完璧に治ってなかったから寒気がしただけだよね?


あたしはそう、自分に言い聞かせると
自分の教室に入る。




「……………。」


だから気づいてなかった。


まだ高松さんが居たことに。


高松さんがあたしのことを睨んでいたなんて

そんなこと

あたしは気がついていなかった。