触れるだけの一瞬のキス。
ううん、もしかしたら掠めただけだったかもしれない。
でも、確かにさっき………
あなたの唇があたしの唇に当たったの。
悠雅は振り払うようにしてあたしの手を離すと
またあたしに背を向ける。
「俺にもう………近寄らないでくれ」
それだけ言い残して悠雅は保健室から出て行く。
あたしは悠雅が出て行った扉の方をただじっと見つめて、崩れるようにその場に座り込む。
「は、はは…………なに、それ………」
勝手に口から出てきた静かな笑いと言葉。
必死にこらえてた涙はいつの間にか流れ出た。
悠雅、悠雅を…………追いかけたい。
追いかけて…
そんなこと言わないでって言って
あたしから抱きついて………
でも、どうしてなのか。
あたしの足が動かないの。
さっき、悠雅が無意識に呟いた言葉が
あたしの頭の中を流れてく。
「うっ……………うわわわわわ……うっ」
泣くことしか出来ないあたし。
勇気を出して入ったはずの保健室。
勇気を出して自分から動いたのに
自分をほめる事なんて出来ない。
自分がバカで仕方ない。
悠雅……………悠雅
あたしを思い出せないって
言うくらいなら
あんなキスしないでよ
近寄らないでくれって
言うくらいなら……
あんな、あんな事言わないでよ……。

