gently〜時間をおいかけて〜

あたしは言った。

「今講義が終わったところだから、すぐ帰るね」

そう言ったあたしに、
「いや、いいよ」

航が言った。

「えっ?」

「俺が迎えに行くから」

訳がわからなくて聞き返したあたしに、航が言った。


校門の前でで航が迎えにくるのを待ちながら、あたしは考えていた。

あたしがいなくなったことで航が不安がったのは、あたしのせいだ。

何故なら、未来のあたしが航に寂しい思いをさせたからである。

未来のあたしは、夫との離婚で手がいっぱいになっている。

その手の中には、航は入っていない。

父親はいつも家にいなくて、頼りになるはずの母親も自分優先だ。