俺の質問に父親は床に視線を落とすと、
「断ってきたよ」

低い声で、そう答えた。

断った…?

仕事優先の人間が?

「母さんが、心配だったから」

父親の口から、“母さん”と言う単語を聞いた。

それと一緒に、“心配だったから”と言う言葉も聞いた。

「俺が何を言ってもムダかも知れないけど、母さんのことはいつも忘れなかった。

仕事の時もずっと、母さんを思ってた」

少しだけ、父親の声が震えていた。

俺は、信じられない気持ちで胸がいっぱいだった。