教室バロック





礼だけ言って、部屋を出た


――― 六時までには戻らないと


朱色の夕日に
黒い影が延びる住宅街

携帯には
メールも着信もないから平気のはず ――


以前は四六時中、連絡が来ていて
授業中
先生に怒られるからって理由で
昼休み以外、やめさせた



… そしてそれは
中学の時の彼女も同じだった

見た目は母親とは正反対
性格も大人しくて ―――

そうやって彼女を選んだはずなのに

―― 皆どうして、

同じ結果になるんだろう






「  真木 」



自宅の門を開けようとした時
不意に後ろから声

細い体に眼鏡
黒いリュックの端、ファスナーの横から
プラスチック、灰色の製図入れが覗く




「 湯浅 」


「 …いきなりごめんな
ほら、今日 真木休みだったから
花先生に、住所聞いてさ
マンガと…俺が描いた同人誌… 」


「 ああああ! そうだった!
マジでゴメン!! 」


「 いや、 隣の駅だし 」


「 上がってけよ! さみいだろ?! 」


「 … い、いいのかな
あの、長居はしないけど、
ちょっとトイレ借りたい… 」


「 しに来い!
デッカイ方でも小さい方でも! 」


「 こ、声でかいって 」



――― いつもは少しの気配でも
飛び出て来る、母親の影が無い

どこかの教室にでも行ってるのか

   あとは、もう一個 ―――