教室バロック





「 …… 母親がいたとか? 」


「 正解!


… 言ってなかったけど
そのコンテストで優勝すると
ハワイ旅行が副賞であって

なおかつデビューすると
東京まで出てこい!って奴でさ

念入りに、それに関する書類は
隠して行動してたし


―― ネットなんて普段やらないのに
甘く見てた


『 くうやちゃんがどこかに行くなんて
絶対イヤ!!』って


…もう、楽屋中メチャクチャだよ


ドラムはブッ壊されてるし
ギターの弦はどこから持って来たのか
ペンチで切られてるし

――― 当然、コンテストはムリ

父親が迎えに来て
メンバーも内緒で楽器、外に持ち出してくれて

高熱で欠場って事にして
主催者側に知られる事も無かったけど


… もう、やれるわけないだろ?

弁償して、それっきり

―― 水泳部もやめた 」




「 … それさ
カノジョとか出来たら、
大変じゃねえか? 」


「 だろうな

… 一回、中学の時かなあ

家に連れて来た事あるんだけど
スゲエ仲良く話してて
買い物一緒に行ったりしてたんだけど

… あれは一時だから
平気だったんだと思う

その辺の心理は、
よくわからねえけどさ 」


「 …病院とか
連れていかなくていいのか? それ 」


「 多少神経質だけど
…オレ以外の事じゃ、
おかしくならないから

家事はカンペキだし
近所じゃ評判の、いい奥様してるよ 」


「 …確かに、
母親が息子を恋人扱いするとか
たまに聞く事あるけど 」


「 恋人なんだよ
…あの人にとってはさ 」


「 うあ 何だよそれ

…… なんかされたのか…? 」


「 全部未遂だけどな

風呂まで入って来た時は
さすがに怒って、カギつけた

―― 高校入って、背も伸びて

顔付きが、
あの人にソックリになってから
行動がおかしくなって来た 」


「 あの人? 」



「 ―― 父親のアニキ


ウチの母親はさ
ずっと昔から、親父の兄貴に
恋してたんだ ――― 」