楓がすぐに答えを出せるとは、乃里子も思ってはいなかった。


けれど『平井』の名を捨てても構わないほど、楓が神谷を愛していたとしたら。


そうしたら乃里子はどんな苦労も惜しまないとさえ思っていた。


「…私、『平井』の名は捨てます。
だから、お願いします。」


突然の楓の言葉に、乃里子は目を見開いた。


「…今の生活から逆転するかもしれないのよ?」


「構いません。
私…神谷さんの家族になりたいんです。
独りなのに一生懸命な、そんな神谷さんの支えになりたいんです。」


楓は強い眼差しで、乃里子を見つめた。


「…分かったわ。
あなたの願い、叶えましょう。」


乃里子が優しく微笑むと、楓もようやく微笑んだ。