梓が繁華街の裏通りにカフェを出してから、一年が経とうとしている。


梓の店とは言え、内装から備品まで全て剛志の祖父剛介が手配した店だし、ビル自体も長田組が管理・所有しているビルだ。


可愛い妻を危ない場所には出せない、という剛介なりの配慮だったのだろう。


自分では一度も様子を見に行ってないくせに、剛志には店に寄ってから帰れと言う。


剛介はワガママで、偏屈で、自己中心的な考え方の、困った年寄りだと剛志は思っている。


だから梓が剛介に愛想を尽かしたなら仕方がない、剛志も素直に引き下がる。


が、今だに『剛介さんが好き』と言い切る梓を見ていると、愛想を尽かした訳では無いようだ。


つまり、何か別の理由があって、二人は別居しているのだろう。


剛志の知らない、何かの理由で。



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