次の日の朝。
それはさっそく訪れた。

がしゃぁあん……

陶器が割れる音がして、反射で全員が音のした方を見る。
ディランの一番近くに座っていた赤目の青年が机に突っ伏していた。
ふら、と隣でも昨日クルーエルに気を使ってくれた女性が倒れる。
相次いで皆が倒れるのに紛れてクルーエルも目立たないようお茶を零しながら倒れた。

「なぜ起きている」

寝たふりのクルーエルは最初自分のことを言われたのかと思ってぴくりと肩を震わせた。

「なぜ、と言われても」

しかしすぐにラディウスの声が聞こえ、クルーエルはそっと息を吐いた。
緊張していたのか息を詰めていたらしい。
幸い、あちらには気づかれていないようだった。

「幻獣には薬も効かないのか……」

お、好都合。
クルーエルはラディウスの読みがあたったことも含めてほくそ笑んだ。
私が眠っていると疑わない以上、ラディウスの計画の足をひっぱることはないはず。
そして、これで私は自由に動き回れるはずだ。

「殿下こそ、なぜ皆を眠らすんです?」

「王国の害になる。幻獣王を召喚させまいとするスパイが混ざってると聞いたんだよ」

「時間稼ぎか、犯人のあぶり出しのためですね?」

「預言獣と言うくらいだ。事前にこのことを知ることは出来ただろう」

「ああ。出来たし、したよ。でも、あんたも俺の正体を……知っただろう」

ラディウスの口調がいきなり砕ける。
ディランの方も虚を突かれたのかすぐに反論はしてこなかった。
そして、その隙にラディウスはディランの根本を揺らす言葉を放つ。

「正しくは、思い出したんだろう?ならいっそ全てを思い出してみないか?」