案内されたのはクルーエルの住んでいた家よりも大きいのではないかと思えるほど広い部屋だった。
ラディウスは隣の部屋に案内されていた。

「すごーい。ひろーい……」

ぼんやりとクルーエルは呟く。

「あれ?」

入ってきた扉とは違う、普通の大きさのドアが壁についていた。
この方向はラディウスの部屋とつながっていそうだ。
開けてみると案の定、もう一つ部屋があり、ラディウスがいた。

「あぁ、クルーエルか」

ラディウスは大して驚きもせず、外套をクローゼットに仕舞う。

「慣れてるね……」

「ん?……あぁ」

ラディウスはまあな、と苦笑した。

「ここは、俺の部屋だった。出て行ったときと何一つ変わってなかったよ」

「……えぇ!?じゃあ、もしかして」

「そっちも俺の部屋だ」

「ほ、本当に王子様だったんだね、ラディウス……」

「やめてくれ。もう俺は王子じゃないんだ」

「あ……うん。そうだね……」

クルーエルは適当に椅子を見繕ってそこに座り、じぃっとラディウスを見つめる。
ラディウスは気にした風もなく、てきぱきと滞在の準備を進める。

「……ん?」

ラディウスがクローゼットから何か服を引っ張り出した。

「見覚えの無い服だな……」

そのとき、コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。

「オリビンでございます。入ってもよろしいでしょうか」

「ああ」

扉が小さく開き、そこから赤い目のメイドが入ってくる。
クルーエルを見たとき、少し驚いたようだが、すぐに目を伏せた。

「ディラン様より、言伝にございます」