部屋に招待され、クルーエルが真っ先に見たものは優しげに微笑む青年だった。
ベッドから上半身だけを起こしてこちらを見ている。
鳶色の髪は腰まで伸び、ベッドの上での長い年月を物語っていた。

「はじめまして、シオンです」

「ラディウス」

「クルーエルです。よろしくお願いします」

ラディウスは名前だけを簡潔に名乗り、クルーエルは慌ててお辞儀した。

「すみません。母に無理強いされませんでしたか?」

「いや、俺達の意思で来た」

「そうですか。それなら……」

シオンはその笑みを他のものに変えた。

「お仕事ですかね?」

「やはり、そうなのだな」

「え?なに?なんのこと?」

「そちらのお嬢さんには、わからないようなので、改めて挨拶したいと思います」

シオンは貼り付けたような笑みをクルーエルに向けた。

「情報屋を営んでおります。よろしく」

「情報屋?」

「ああ」

ラディウスは頷いた。

「内に篭っている奴こそ、情報に詳しい。病人と侮って、『ここだけの話し』をしていく客も多いだろう」

「そちらの方の言うとおり。どんな情報をお望みですか?」

「セレスティア城の内情。ディラン国王の動きを知りたい」

「ああ、そういうことなんだ……」

クルーエルは納得した。
何をするにも、情報というヒントがあれば動きやすくなる。
行動の指針にもなるだろう。

「それでは、対価に何をいただけますか?」

「……帝国についてはどうだろう。千里眼、幻魔の一族について」

「わあ。ずいぶんレアな情報ですね?鮮度も落ちにくい一級品の匂いがします」

シオンは無邪気に笑った。
対してラディウスは飄々とした態度をくずさない。
どちらもさすがだなあとクルーエルはなんともなしに思った。
情報のやりとりはポーカーと同じ。
腹の探り合いなんだ、とクルーエルは理解した。