予兆は感じていた。
空気の震えには敏感だから。
ラディウスも今頃、残してきた声を聴いて慌てていることだろう。

光の城の軋む音が聞こえる。
きっと、今集まっている光がこの城に全て集まったその時、この城は崩れる。
そうなれば、光に属する幻獣の多くが命を失ってしまう。
それは、闇の力が強まるということで、幻獣界も、フェアルーンもその均衡が崩れて、きっと壊れてしまう。
それを防げるとしたらただ一人、神だ。
とりあえず、目下のところはこの城の補強が優先だ。
結局崩れてしまうにしろ、避難の時間を稼ぎ、その均衡の偏りが決定的なものにしないために。
「間に合え……!」

クルーエルは走っていた。
人の集まる中央ホールへ。



「神子さま」

突然の声に驚いて振り返ると、そこに、一度だけみた少女の姿があった。

「夢の……」

「はい、アインと申します。神子さまが不在の間、代理巫女を務めさせていただきました」

アインは神聖な気をまとわせて挨拶をした。

「神子さま、今すぐ神子の儀を執り行わなければなりません」

「なぜだ」

「必要だからです。ついてきてください、道中、姫様からいただいたその幻結晶に宿った声を聴くことをお勧めします」

ラディウスは頬が熱をはらむのを感じた。

「まさか、見て……」

「時間がありません、急ぎましょう」

アインはさっさときびすを返して城の中に戻っていった。