時雨の奏でるレクイエム

「お帰りなさい。我が娘、そして義弟……」

玉座の前で光の幻獣王が両手を広げて二人を歓迎した。
髪と瞳は光り輝く黄金色で、髪は長くまっすぐ伸ばしていた。
歳は30くらいの男性で、父親のような雰囲気を感じた。

「待っていた、お前達の帰還を……」

幻獣王は嬉しそうに目を細めた。
それを見てラディウスは優雅に礼をした。
慌ててクルーエルも倣う。

「あ、あの。はじめまして……私は、」

そこまで言ってクルーエルははた、と気がついた。
……そういえば、幻獣になったから名前が一度なくなっちゃったんだ。
クルーエルが口ごもったので幻獣王も同じ考えにいたったのか、苦笑して二人に近づくようにと手招きをした。

「我が娘よ、人の名は?」

「クルーエルです」

クルーエルが名乗ったとき、幻獣王は眉をひそめた。

「その名は……」

「わかっています」

幻獣王が何かを言おうとしたのをクルーエルは遮った。
幻獣王は少し考えてから質問した。

「人として生きている間、幸運だったか」

「……幸せでした。特に、旅をしている間は」

クルーエルは隣でラディウスがどんな顔をしているか見えなかったけれど、幻獣王が二人の顔を交互に見つめ、ため息をついた。

「ならば、お前の名をシルヴィアとする。だが、真の名はクルーエルだ」

「はい。私の名前はシルヴィア……でも、これからもクルーエルとして生きていきます」

もしかしたら、それは短い時間かもしれないけれど。
選択の時間なんて遅く来ればいい。
でも、もしその時が来たとき、私の選択はとっくに決まっている。
だから、私はクルーエルとして生きていくんだ。
そう、決めたから。