「君も妻もおかしいよ。普通はありえないよ、こんなこと」 旅先で太郎が言った。 「奥様には感謝しています。彼女に恩返しするために死ねと言われたら今すぐこの身を捧げるわ」 母はもうすぐ遂げられる思いに、感極まっていたのだろう。 「僕は平凡な男だよ。こんな僕のどこがいいの?君は、その、とても若くて美しいし」 「あなたがいいの。逢ったとたんこの人だって感じたわ。あなたじゃなければ駄目なのよ。あなた以外じゃ」 思いつめたように母は言った。