「ふぁんた」


わたしは弟だと名乗る、でかいヤツに向かって言った。



「なあに、ばんび」


ふぁんたは嬉しそうに返事をした。



―人が聞いたらバカカップルだと思うかもしれない―



「パスポート出して。アメリカから来たのなら、今日の入国スタンプ押してあるはずでしょう?」


「うん、いいよ」


ふぁんたはわたしが疑った素振りをしているにもかかわらず本当に素直な顔をして、再びリュックを開けると紺色のパスポートを出した。


〔天草DONALD富安太〕のサインと共に、ニーッて感じで笑った屈託のないふぁんたの顔写真がそこに貼ってあった。



確かに入国の日付は今日になっていた。



「もしかして、あなたのお兄さんのしらゆきさんのミドルネームってMICKY?」



「わぁーっ、何で知っているの?」


ふぁんたは驚き笑いをした。



―ばかばかしい、ディズニー好きで弟のミドルネームがドナルドとくれば、兄はミッキー以外ないではないか―


わたしはふぁんたに危険性が無いことを察した。



そしてこうなったら徹底的に話を聞きだすつもりでいた。



母が死んだ今、わたしは過去を掘り起こすのを諦めていたが、ラッキーにもこの脳天気な顔をした〔おとうと〕からは、何か聞き出せるかもしれない。