「寺尾警部、とにかく容疑者は逃走したのです。後を追うのが先です」
他の警察官が茹でダコのように真っ赤になって歯軋りする背の低い刑事を促した。
5人はぞろぞろと出口に向かった。
「やーい、ブ男の固太り!ルックス悪くてモテなかったから性格歪んでるんだ!」
普段は目立たない事務の川合さんが叫んだ。
びっくりした。
寺尾と呼ばれていた刑事が声に反応し、さらに紅潮した顔で振り返りイノシシのように突進してきた。
他の刑事が寺尾を押さえつけ、片手を顔の前に立てて謝りながら出て行った。
「ブ男の固太りで振り向くなんて、しっかり自覚してるんだ!」
追い討ちをかけるように川合さんが言って、スージーに「そこまでっ」と口を塞がれた。
出入り口の外から寺尾の喚き声と同僚のなだめる声が聞こえてきた。
「あれ、ふぁんた君がいない」
樋口さんが言った。
「あっ、もうこんな時間だ。さては先にホテルに行ったんだわ」
わたしは時計を見て、そう答えた。



