わたしには父がいない。生まれる前からいない。





「私は聖母マリア様のように、一人であなたをさずかったのよ」



幼い頃何度も父の存在を確かめようとするわたしへの答えはいつも一緒だったので、そのうち面倒くさいのと、聖母幼稚園の仲良しだったみっちゃんが「聖霊のおみちびきなんてすてきねえ」と、羨望の眼差しでわたしを見つめたのがそんなに悪いものでもなかったので、聞くのをぴたっと止めてしまった。