家に帰ると、帰ったはずの琴ちゃんが家にやって来た。額に入った鴨宿公園激坂レースで僕が勝った瞬間が描かれていた。死ぬほど苦しそうな顔しているのに、嬉しそうな、笑っているようななんとも表現しがたい顔をしていた。僕は以前琴ちゃんからもらった絵の隣に飾った。2枚とも見ているだけで元気が出てくる。
琴ちゃんの絵は見る人に勇気を与える力があると僕は思った。
僕にはどんな未来が待ち受けているのだろう。5年後、10年後もロードバイクに乗っているのだろうか? 自転車が勇気をくれる。自転車が前に進む力をくれる。だって、車はエンジンがあるけど、自転車のエンジンは人間。人間がペダルを漕がなければ進まない。どんなにゆっくりでも回し続けていれば、自分の思い描いた未来に到達できると信じている。
あと1週間で夏休みも終わる。風太と隼人がいなくなった。僕はあの2人といつも一緒にいた。あの2人のいる空間が居心地が良かった。さっき別れたばかりなのにあの空間が懐かしい。
でも大丈夫。自転車で、ロードバイクで僕らは繋がっている。
僕は無性に鴨宿公園激坂コースを走りたくなった。坂の頂に輝く未来があるような気がしたからだ。
何度も何度も上っては下り。上っては下った。何度走っても、未来は指の隙間からすり抜けて行った。
琴美はこっそり後を付けてきた。物陰から流ちゃんの走る姿をずっと見ていた。琴美の目には無心になってロードバイクで走る姿がどんどん光輝いていく。無心になればなるほど光輝き、光そのものになっていくように見えた。