入ってツール・ド・フランスに出場しようと約束したじゃないか。だからヤケになるなよ。
僕の眼からは涙が流れていた。風太を見失ってさまよっていた。涙を拭いて考えた。風太がどこに行くか。
「風太?」
鴨宿公園の激坂のてっぺんに人影が見えた。人影はくるりとこちらを向いた。
「流星」
僕は風太に近づき言った。
「親って勝手だね」
風太は僕を見たまま黙っている。
「出世するからって、誰もが嬉しいわけじゃないよ」
「ありがとう」
「うん」
「帰る?」
風太に聞いた。
「帰る」
風太は笑った。
家に戻ると「ああ、良かった。あと1分帰ってくるのが遅ければ警察に連絡していたところよ」と、お母さん3人が安堵のため息をついた。
こんな騒ぎになっているのに、お父さん3人組は鼾をかいてまだ寝ていた。
僕はいい気なもんだと思った。
「隼人君は?」
「うん、流星の部屋で寝ている」
「僕達も寝よう」
僕の狭い部屋に布団が3枚並んであった。その一番隅に隼人が寝ていた。
僕と風太が布団に入ると「お帰り」と、声が聞こえた。僕も風太も真っ暗な天井を見詰めたまま「ただいま」と言った。
カーテンの隙間からキラキラ輝く星が優しい光を放っていた。