「そうそう、隼人も謝れよ」
 風太も僕と同じ意見のようだ。
 「そうか、オレが原因だったのか。悪かった。許してくれ」
 隼人はあっさり謝った。隼人の良いところは、人の意見を素直に聞き入れるところだ。もちろん、自分が悪くないと思えば、絶対に謝ったりしない。でも、自分が悪いか悪くないかという判断が異常に早い。そのような判断力の早さは、小学生とは思えないものがあった。
 「どうしよう。自転車が乗れなくなった」
 僕が一人で悩んでいると、隣から、風太と隼人の声が聞こえてきた。
 「このロードバイクはいくらぐらいしたんですか?
 「100万円」
 「えっー100円? やすっ」
 風太がおれも買う! というような勢いで言った。
 「100円玉だと、1万枚必要だね」
 ロードのお兄さんが笑いなが言った。
 「1万? 1万円。高い」
 「お前、馬鹿だな。100万円だよ。100万円。1万円札を100枚。これでもわからないなら、福沢諭吉を100人自転車屋に持って行くんだよ、馬鹿」
 隼人がイライラした口調で言った。
 「君達ロードバイクに興味があるのかい?」
 「毎年ツール・ド・フランス観ているから」
 「ちょっと、僕は自転車がなくなって、ヘコんでいるのに」
 「そんなにすねるなよ。おふくろが弁償するって」
 隼人はお母さんの顔見て同意を求めた。
 「もちろんよ。今日、買いに行きましょう」
 隼人のお母さんは慌てて言う。
 「自転車買いに来るのなら、駅前の自転車屋『サイクルショップ電光石火』に来てよ。サービスするよ」
 「お兄さん自転車屋で働いているんですか?」
 「うん、まあね。じゃあ、自転車屋で」
 ロードのお兄さんは、そう言って走って行った。