ヘタレ男子の恋愛事情

彼女はニコニコ笑っている。
何かやり遂げて褒めて欲しがっている子供みたいな、無邪気で幼い笑顔。

「ありがとう」

口と同時に、左手が動く。

それは無意識の行動だった。

僕の手は、彼女の頭を撫でようとしていた。
けれど、途中で止まる。
それは意識でも理性でもなんでもなく、左手に持ったままの本が邪魔をしていたからだった。
中途半端に上げてしまった腕が、行き場を失って固まる。

そこでやっと、僕は僕自身が取った行動に気付いた。

「っ、」

不自然過ぎるほどの速さで、僕は宙に張り付いたままの腕を動かした。

下に、ではなく、


なぜか横に。


ここは図書館で、
それも、棚と棚の間と言う狭い空間に僕らはいるわけで、

当然、僕の手は棚にぶつかって大きな音をたてた。