「…離して下さい」
月詠が弱々しい声をだした。
栗塚は無言で手を離した。
「…いつ、警部達を呼んだんですか……」
最初、栗塚は奥に身を潜めてもしもの場合に備えていた筈だ。
「…山内が来た後ぐらいかな……」
カチッ
栗塚が指に挟んだ煙草に火をつける。
「そう、ですか……」
そしてまた広がる静寂
お互い、
何も言葉を発しない。
栗塚が携帯灰皿に吸った煙草を捨てた。
「すみませんでした…」
静寂を破ったのは月詠だった。
「…自分の感情に流されて、手を上げた事は謝罪します。…でも、」
言葉を区切る。
「訂正はしません。私は、ああいった身勝手な大人は大嫌いです。」
月詠は言った。
山内は、自分の母親に似ていたのだ、と
外見ではなく、中身だ。
月に一度、母は自分に決まった額が入った封筒を送るのだ。
それと、手紙を。
月詠は金は送り返し、手紙は一度封を開ける事なく捨てていた。
家を出ると父に言ったあの日、母は何も言わなかった。
ただ黙り、
私を見ていただけだっだ。
怒鳴る父など放って、
守ってほしかった。
“行かないで”と、
本当は言ってほしかった。
あの日言ってくれなかった言葉の代わりに、毎月送られる決まった額の金と手紙
後悔している、
そんな気持ちがわかる。


