「聞いてるよ、もちろん。
 キリンほど話が面白い子には、出会ったことがないからな。
 ほら、中で珈琲でも飲んでいけば?
 奢るよ」

すっかりいつもの口調に戻った美虎は、私を置いてすたすたと歩き出す。

「なんでよ、私。
 アンタに奢ってもらう筋合いなんてないんだけど」

「なんで?」


振り向いた美虎は、不思議そうに首を傾げる。
それから、いつもの意地悪な口調で続けた。

「俺、珈琲の一杯も彼女に奢らないようなケチな男じゃないよ」


――はい?
  なんですって?


呆気に取られている私を置いて、美虎は一足先に喫茶店へと入っていく。