だから、私は気にしなかった。


私が席に戻った直後、隣の席の男の子が「バーカ、そんな曖昧な挨拶で誰が声をかけるかっつーの」と、小さく呟いたことになんか。


けれども、実際。
それから一週間過ぎても、誰一人バンドの話を私に持ちかけてはこなかった。

そこで、私は意を決して隣の席の例の彼に聞いてみた。

「ねぇ、稲葉くん。
 どうして誰も声をかけてくれないんだと思う?
 いまどき、皆バンドになんて興味ないのかしら」

稲葉くんは唐突な私の質問に形の良い瞳を丸くして――。
それから、紅い唇を歪めてくすりと小ばかにしたような笑みを浮かべた。