人の近寄らない渓谷だからこそ残る景色。


キラキラと輝く風の流れには魔力が満ち溢れ、人の目には見えない幻想的な色が視界を埋める。



「綺麗………」


涙を拭い、景色を見渡したミラが呟く。



ニルは不思議そうにミラを見つめた。



「いつもどおりだと思うけど?」


「…………」


「………」



普通すぎない?


せっかくの感動も一言で台無しだ。


あの世界には無かったものがたくさんあるのに…………。

彼を彩ろうとする花も木も当人がこうでは不憫に思えてくる。




「いいの、ニルはニルだもんね…………」


魔王の彼に求めすぎたかもしれない、と感じたミラは手を放して歩き出した。



仕方ないのだ。




そこも含めて彼が好きだから。





一方、


…………感じ悪くなった?

ニルはミラの後ろ姿を見ながら複雑な気分だった。