幕末純想恋歌

「あ~、よかったよかった。」

満足気で、どこか安心した風の近藤。

…そんなにひどかったんだろうか。

「いや、しかし喜んでばかりもいられないな。帰る方法も探さなくてはいけないし。なにより親御さん達も心配しているだろうし。」

「それは大丈夫ですよ。親のことは。」

ゆっくりと笑う。

「だって家族いませんし、わたし。」

近藤達は驚いた顔をしている。

「両親はわたしが七歳のとき死にました。それからは年の離れた兄が育ててくれてたんですけれど、兄も去年死にました。だから、一人暮らしです。別に、天涯孤独とかじゃないですよ?蓮ていう幼なじみの男の子とか蓮の両親もなにくれと面倒見てくれてましたし。あ、蓮とか心配するかも。」

近藤が目頭を押さえている。

涙脆い人のようだ。

「親も兄もって…苦労したんだな。どうやって生活していたんだ?」

「貯金もけっこうありましたし、うち剣道の道場なんです。それで、もともと師範代してて、今兄の代わりに師範やってて。道場経営で収入があるんですよ、門下生多いですし。それに宗家なのでほかの道場からもいくらか。」

だから、忙しくてもかなり裕福なのだ。