幕末純想恋歌

「戻ったぞ」


数日後、大坂へ行っていた面々が帰ってきた。


「芹沢さん、あんたやってくれたな。なに考えてるんだ、力士と乱闘、あまつさえ死人をだすなんて」


芹沢と対面するやいなや、土方が詰め寄った。


「なに、あやつらが我らに無礼を働き、しかも逆恨みをし襲いかかってきたため、応戦したまで。どこに問題などあろう」


「向こうは刀も持たねぇ町人だろうが!!」


「奴等は武器を持っていた、刀でなくてもな。ならば同じこと。武器を手に取った以上、自分に何があっても文句は言えん」


「……くそ…」



土方は言葉につまり、顔をしかめた。


それを嘲う芹沢。



「これ以上は無意味だ。部屋に戻る。葵、茶を持ってこい」


「…は、はい!」


そうして去る芹沢。




「──感情だけではなにもできんぞ、土方──」


「……っ!!」




芹沢が土方の隣を通るときにそう囁くのが聞こえた。

──その時の土方さんの悔しそうな、苦しそうな顔がわたしの記憶にひどく残っている。