制服のブレザー。

そのポケットからハンカチを取り出し、口を覆う。

目に沁みるほどの臭気だったが、そんな物に負ける訳にはいかない。

吐き気すら催すほどの強烈な薬品臭の中、夕映はゆっくりと歩を進めていった。

…歩く度に、パキパキと音がする。

ガラス片を踏み締める音だろう。

病院のロビーを通過し、階段へと向かう。

ロビーもまた、酷い有様だった。

待合室のベンチが引っくり返り、そこらに放置されている。

これはゾンビの侵入を防ぐ為にバリケードに使ったものなのか、それとも逃げる際の混乱で引っくり返ったものなのか。

何にせよ、ここもゾンビの襲撃で大混乱に見舞われた後が窺えた。