屍の孤島

先程刑事課で入手したカッターナイフを、ポケットから取り出す。

小野寺自身は精神科医だが、彼の家系は親戚の殆どが医療関係職というエリート一族だ。

麻酔医、脳外科医、整形外科医など、小野寺家一同が揃えばどんな手術でもこなせるのではないかという錚々たる顔ぶれ。

そんな中で生活してきた小野寺も、精神科医でありながら切開や解剖程度の知識は自然と身につけていた。

…本来ならこんな場所での切開など不衛生な事この上ないし、カッターナイフの刃を熱した後アルコール消毒でもする必要があるのだろうが、相手はゾンビだ。

そんな必要もないだろう。

「……」

緊張した面持ちで、小野寺はカッターナイフの切っ先をゾンビの腹に当てる。

流石にメスとは違って切れ味が悪い。

切開には適さない刃物だったが、この際贅沢は言っていられなかった。