「まぁ、いざとなったら、私が助けるから大丈夫ですよ。“リスティーヌ様”。」

しかし、少女は全く動じることなく、その綺麗な顔で微笑む。

それも、わざわざ名前を強調しながら、だ。

これが自分の主人でなければ張り倒していただろうな、と思いながらその“リスティーヌ様”は覚悟を決めてゴクリと喉を鳴らす。


その様子を見ていたディアナが笑いを噛み殺しているのが視界に入ったが、既に馬車の扉がゆっくり開き始めたため、彼女は凛とした姿勢を保つ。


そう。今の自分は“リスティーヌ様”なのだ。


昔からよくやらされていた事だったが、まさかこんな日に自分が“リスティーヌ様”になるとは数日前の自分でさえ夢にも思わなかっただろう。

しかし、これも無理矢理とはいえ乗り掛かった船。

こうなったら可能な限り“リスティーヌ様”を演じてみようと決心して、にっこりと微笑みつつドレス姿のセレーネは馬車から優雅に降り立つのだった。