――その日、セルスト帝国の王宮内では朝から人々が慌ただしく準備に追われていた。

何しろ、今日は遠国ラキアヴェルから皇太子の正妃候補として王女がやってくるのだ。

いくら軍事力が弱いラキアヴェル王国と言えども、あの国には金鉱などの豊かな資源がたくさんある。

軍を派遣する代わりに十分過ぎる分け前を貰っているセルスト帝国としては、同盟の証であるラキアヴェルの王女を歓迎することは当たり前のことだった。


「ラキアヴェルの馬車が着いたぞー!」


不意に誰かの叫び声が人々の耳に届いた。

そして、紅い髪と緑の瞳を持つ見目麗しい王女様とやらを一目拝見しようと、人々は自分の仕事もそっちのけで城門のほうへと向かっていく。

さらに、普段あまり人前に出ることがない皇太子様のお顔も拝見することも同時に期待して。