「ふぇ……」


私の、涙をせき止める堤防が壊れた気がした。


泣いちゃいけない、って思うほど涙が溢れてくる。


「美結、ごめんな。泣かないで」


愛人の指が、私の涙を優しく拭う。


涙でぼやける視線の先に、愛人の苦しそうな情が見えた。


泣いちゃダメなのに、私が泣いたら、愛人はもっと苦しむ。


ううん、愛人だけじゃなくて、愛人を生んだお母さんも、責任を感じてしまう。


だから、泣き止まないといけないのに、涙は全く止まらなかった。


「美結……」


私の頭をスッポリと胸に抱きしめる愛人。


「少し、休憩しようか。別の部屋に案内するから、落ち着いたら戻っておいで。今日が無理なら、別の日でもいい。ただし、なるべく早くね」


そんな私たちを見て、クリス先生は優しくそう言った。


愛人に支えてもらいながら、看護師さんに案内された別の部屋に入る。


そこは、妊婦さんが入院する白を基調とする個室で、太陽の光がたっぷり降り注ぐ温かみのある部屋だった。